蝉の声を待ちながら

今夏の宮の杜は、蝉の声がどこか控えめです。
例年なら、夕方の始まりの頃まで、
「ここに命あり」と誇るように、
精いっぱい鳴いていたはずなのに。
そういえば、木の幹にしがみつく抜け殻も、
この夏はあまり見かけません。
異常気象の影響でしょうか、
それとも、自然界の静かな帳尻合わせなのか。
けれど、隣の田方では苗が順調に育ち、
青さの深まりが、野を穏やかに満たしていた。
光と風に撫でられながら、
命たちはまだ、あきらめていないようだった。
どうかこのまま、何事も起こらず、
秋には、豊かさと安堵の実りがありますように。
そんな祈りだけが、手のひらに残った。
私はそれを、そっと杜に置いて帰る。



